このタイトルセンスあるなぁ・・・なんて感じるアルバム名があると思うんですが、次のタイトルを見てどう思いますか?

「Elegant Gypsy」
「World Sinfonia」
「Heart Of The Immigrants」

今回はアル・ディ・メオラとタンゴの紹介です。

「アル・ディ・メオラ」・・・というのはちょっと変わった名前かもしれませんが、「アル」ってのはイタリア系の名前なので、移民の家系なんでしょうね。彼は70'sにJazzFusionの分野でデビューしながらも、ロック界で非常に高い評価を受けた天才ギタリストです。Jazzギタリストのことはあまり知らないけれど、アルのことは名前だけ聞いたことが・・という人も多いと思います。個性が強いためか非常に評価の浮き沈みの激しいギタリストでもあります。(ルックスも個性的ですしね)
ニュージャージーで育った彼は、ラリー=コリエル(*1:ジャズとロックの融合を行った先駆者)に影響されてギターにのめりこみ、地元のサルサクラブで演奏するようになり、やがてボストンの名門、バークリー音楽院に進みバカみたいに練習して力をつけ、19歳の頃にはチック=コリアに認められ「リターン トゥ フォーエバー」(*2:ジャズ・ロック・アンサンブル)に参加。ここで彼は一躍ギターヒーローとして世界にその名を轟かせます。
(アルバム”ロマンティック・ウォーリアー” ちなみにこのジャケが好きだな)
RTF

彼のギタースタイルは”ラテン風”な”正確無比”の”高速フレーズ”で、比較的ロック色の強い独自のラテンフレーズをこれでもか!これでもか!!と、超高速で繰り広げる様は初めて聞く人はただただ圧倒されます。(今では巷にあふれているけど、この時代にこのスピードで弾ききる人は少なかった)そのためロック界で「Fusionでものすごいギタリストがいるぞ」・・・と評判になり、多くのロック畑の人がFusionに着目するきっかけになりました。デビューアルバムのエレガントジプシーはアルのエネルギーが爆発した名盤です。

Race With Devil On Spanish Highway (スペイン高速悪魔との死闘)
Mediterranean Sundance (地中海の舞踏)
アルバム「Elegant Gypsy 」全曲イントロだけ試聴できます

もちろん高速フレーズが彼の魅力なんですが、サステーションの効いた艶のあるトーンも味わい深いです。しかし彼の音楽はあくまでラテン”風”であり、フレーズにはラテンの味付けがたっぷり施されていますがどこか借り物のような造花のような、表層的というか人工的な雰囲気が漂っていて、それがまぁ突き詰めると奥行きが浅いとも言えるんですが、逆にいうとデフォルメされた非常にわかりやすいラテン音楽な訳でそのわかり安さがロック界でも受けた理由かもしれません。(80'sに入って再びイングウェイに代表される速弾きブームが起こると、アルは再び再評価されることになります。 イングウェイのデフォルメされたクラシックが受けたのと似てますね(笑))
先程触れたルックスも、20歳なのに七三風の髪型にでかいフレームのメガネ、達磨ヒゲ・・・ともっとすっきりしたらモテルだろうに、なんでワザワザ・・・なオタクちっくなオヤジファッション。デコの広さと風貌から「ギターを持ったダメ親父」・・・などと呼ばれてました(笑))
↓コレ(笑)

Al



やがて「スーパーギタートリオ」に参加して早弾きギタリストとしての評価を高めます。

Fantasia Suite /SuperGuitarTrio

(ちなみにこのスーパーギタートリオのライブビデオを見ましたが、めちゃめちゃ感動的なステージでした。野外コンサートで万単位で人が集まっているステージでショーが終わって照明がついても、みんな帰らず熱狂的な雰囲気の中アンコールを求めつづけていました。結局アンコールが延々続いて3時間くらいのショーになったのかな?(笑))

しかし、それと同時に「速いだけのギタリスト」「音楽的霊感がない」「機械的なフレーズマシン」・・等の逆風も受けてしまいます。
80's後半から90's前半にかけて”超絶テクニックをもった魂の無いダメギタリスト”の代表格としてマスコミや批評家から黙殺されていた彼も、近頃色々なことに気付いたらしくファッションを改め、音楽的にも深みを増してきました。お酒を飲みながら聴きたい音楽ですね。

In My Mother's Eyes

特に南米のタンゴマスター、アストル=ピアソラとの接近により非常に深みと情緒溢れるサウンドを作りあげるようになりました。「ワールドシンフォニア」あたりは朝聴くととても心が潤いますね。実際やってることは70'sとそう変わってないのになにか魔法がかかったような飽きのこない音楽に仕上がっています。

Falling Grace

しかし世間の評判はまだ、速いだけのギタリストという評価のままのようで、機会があればもっと多くの人に彼の情緒溢れるPlayを聴いてもらいたいなぁ・・と感じています。



さて、90'sのアルが着目したタンゴなんですが、日本では「ダンゴ三兄弟」でブレイクしたのが記憶に比較的新しいですが、その前にもタンゴの巨匠アストル=ピアソラが1992年に亡くなりクラシック界をメインにタンゴブームが沸き起こりました。ピアソラの曲は難易度が高く、バカテク系のアーティストがこぞってレパートリーに加えました。アルはピアソラが亡くなる数年前に彼との交流をもち、ピアソラの信奉者になっていました。

ピアソラはタンゴの巨匠だが、認められたのは晩年になってからでその前は「タンゴの破壊者」として異端扱いされていました。彼はタンゴの作曲家にしてバンドネオン奏者。バンドネオン(*3)とは外見がアコーディオンに似ていますが、アコーディオンのようなキーボードではなく、かわりにいくつもの「ボタン」がついているちょっと変わった楽器です。

バンドネオン

ピアソラについては、このページでほぼすべてを語っているのですが、
http://www2s.biglobe.ne.jp/~cama/tango/piazzola/piazzola.html
ちょっと長いので面白そうなところをピックアップすると・・・


ピアソラの音楽の最大のすばらしさとは,その中に「魂」を感じることができる点にあるのだ。ピアソラの音楽は,ときには聴いている者に挑みかかってくるかのような激しさを持っている。ピアノがわめき,バンドネオンが叫ぶ。バイオリンがきしむような悲鳴を上げる。その激しさに付いてこれるものだけが彼のメッセージを理解することができる。これは,甘く切ないタンゴではない。もはやロックなのだ。激しくぶつかり,ハートがちぎれんばかりに躍動する。彼は挑発する。聴衆を,そしてこの世界を。壊さなければ何も生まれてこない。スクラップ&ビルド。彼がタンゴの奇才,タンゴの破壊者と呼ばれるゆえんはそこにあるのだ。
しかし,ピアソラが単なる挑戦者だったかと言うとそんなことはない。彼は突き刺すような激しさと共に,泣けるほどの悲しさと優しさを持ち合わせていた。タンゴの持つ郷愁をそそるようなメロディーに加え,彼独自の悲哀とでも言ったものが彼の音楽の中には満ち溢れている。激しいリズムの後にくるゆったりとしたメロウな旋律。バンドネオンが嘆き,バイオリンがすすり泣く。破壊するだけでは何もつかめない。死と再生。彼の音楽の中にはいつも救いがある。この疲れた世界に対する嫌悪と挑戦。そしてその後にくる救いと希望。この2つの要素が混ざり合ってピアソラの音楽は作られている。だからこそ,僕たちは彼の音楽に惹かれるのだ。そういった意味では,彼の音楽は一種のカタルシスなのかもしれない。現代という病んだ社会に対する挑戦と,そして救い。彼の音楽を聴いているとどこからか涙があふれ出し,人々はつかの間の幸福を手に入れることができる。



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<アル=ディ=メオラ>
http://www.listen.co.jp/artdetail.xtp?artistid=19157&artpg=rc
70's後半、チック・コリア(p)率いる第二期リターン・トゥ・フォーエヴァーに参加し、驚愕の超速弾きギタリストとしてシーン登場したアル・ディ・メオラ。スパニッシュ・フレイヴァー溢れるプレイで当時のチックと絶妙のコンビネーションをみせ、弱冠19歳にして名声を手中におさめた。
80年からは、同業のジョン・マクラフリン/パコ・デ・ルシアとスーパー・ギター・トリオを結成してギター小僧の熱視線を浴び、バンド・ネオン奏者であるアストル・ピアソラ/ディノ・サルーシらとの親交を通してラテン音楽に深く傾倒する。そして90年の『ワールド・シンフォニア』では、ただの超絶技巧野郎から叙情的でスケールの大きなサウンドをクリエイトする真のアーティストへと脱皮した。――タンゴの激情と哀愁を内包したディ・メオラ・ワールドは、あなたの心の琴線をかき鳴らす。

<試聴>
アルバムリスト (スピーカーマークのついたCDは試聴できます)
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<アストル=ピアソラ>
http://www.listen.co.jp/artdetail.xtp?artistid=18783&artpg=rc
1921年1月30日、アルゼンチンのマル・デル・プラタで生を受け、92年にブエノスアイレスで死去。今さら言うまでもなくアルゼンチン・バンドネオン奏者の権威である。
バンドネオン――このアコーディオンに似た楽器とタンゴ(ひいては"タンゴ・ヌーヴォ"と呼ばれるニュー・スタイル)を世界に広めると同時に、ブエノスアイレスにある労働者階級向けのダンスホールや波止場のナイトクラブで自身のルーツを忘れることなく着実に活動。その人生の悲喜こもごもを呑み込んだような調べは、激しい政治紛争や伝統主義者の反感を乗り越えて活動を続けた彼の強靭な精神力そのもの――といえるのでないだろうか。
幼少の頃にN.Y.に移住し、13歳にしてクラシカル・タンゴの王様、カルロス・ガルデルに才能を見出されて以来、母国音楽への可能性を追求し続けたタンゴ界のバッド・ボーイ。――傑作を多数輩出した真のアーティストだが、特にピアソラ五重奏団最後の録音となった『La Camorra ――Solitude of Passion』は、最高のコンディションが感じられる必聴アルバムだ。


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<参考>
*1:ラリー=コリエル
http://www.listen.co.jp/artdetail.xtp?artistid=14991&artpg=rc
ジミ・ヘンドリックスやクリーム時代のエリック・クラプトンに感銘を受けたコリエルは、以降エレクトリック・ギターの魅力を最大限に引き出しながら、ジャズ・フュージョンの世界に邁進。初期のソロ・アルバムでは、エルヴィン・ジョーンズ/ジミー・ギャリソン/ジョン・マクラフリン/ビリー・コブハムといったミュージシャンがフィーチャーされ、アグレッシヴなサポートを堪能できる。また71年にはヘンドリックスが設立した<Electric Lady Studios>で「Barefoot Boy」を録音。ジャズ・ドラマー、ロイ・ヘインズの演奏とコリエルのフィードバック奏法/斬新なディストーションが交差するパフォーマンスで注目を集めた


*2:リターン・トゥ・フォーエヴァー
http://www.listen.co.jp/artdetail.xtp?artistid=24640&artpg=rc
キース・ジャレット、ハービー・ハンコックと並ぶ現代ジャズ・シーンの最重要キーボード奏者、チック・コリア。その長いキャリアにおいてさまざまなユニットで活躍してきた彼が、実験的なフリー・ジャズ色の強いサークルに続いて70年代初頭に結成したのがリターン・トゥ・フォーエヴァー。
初期のRTFはブラジリアン/ラテン・テイストを全面に押し出したサウンドで、その後、メンバー・チェンジを繰り返す中で、グループは次第にシーンを代表する超強力なジャズ・ロック・アンサンブルへと変貌していった。ギタリストにアル・ディ・メオラが加入してからはさらにその色合いが強くなり、フュージョン全盛の時代背景をバックに圧倒的な支持を受けた。76年に発表された『ロマンティック・ウォリアー』はグループとしての円熟を感じさせ、後期RTFの傑作の一つに数えられる。
70年代後半に解散するまで、いくつかのサウンド・スタイルを経ながら、絶えず想像力に満ちあふれた緻密なアンサンブルと高い即興性、そしてコリアらしいロマンティックなメロディ・センスとエッジの効いたハーモニー感覚を絶妙のバランスで共存させ続けた稀代の名グループである。 (近藤 陽)


*3:バンドネオン
バンドネオンはアコーデオンのように規則的に鍵盤が並んでいない。あるのは一見バラバラに配置されたような30個ばかりのボタンだけだ。しかも,このボタンは右と左の両方に同じ数配置され,蛇腹を押したときと引いたときで違う音が出るようになっている。つまり,左右押し引きで4種類のボタンの配置を覚えなくてはならないのだ。これはかなり厄介な作業である。ちなみに音は左の方が低音域で,右の方が高温域である。要するにピアノと同じように,左手で低音を奏で,右手で高温を奏でるというわけだ。通常は左手の低音域でコード(和音)を弾き,右手の高音域でメロディーを奏でることになる。このような構造のバンドネオンなのだが,その複雑さゆえに弾きこなせるようになるとかなり表現力豊かな楽器となる。左右10本の指をフルに使用すれば最高10までの和音が出せ,しかも音域も実に幅広い。オルガンのように足までは使えないが,蛇腹の使い方で音の強弱やアクセントの付け方も自由に行える。これはもう本当に携帯版のオルガンを越えたすごい可能性を秘めた楽器なのである。バンドネオンの可能性は,タンゴをより高度な次元の音楽へと導いたのである